唇歯輔車(しんしほしゃ)

故事成句=故事(大昔にあった事件や由緒ある事柄)で、出典は『春秋左氏伝』という聞き慣れない書です。西周の春秋戦国時代、晋の献公が(かく)を滅ぼすために、虞(ぐ)にワイロを与えて通行許可を求めました。すると虞の賢臣が、「と虞は一体であり、が滅びたら虞も滅びましょう。諺にも”輔車相依り、唇亡ぶれば歯寒し”と申します」と虞公を諫めたことを原典としています。

つまり、”唇歯輔車”は、密接な関係にあって、お互いが助け合うことによって成り立つことの例えで、持ちつ持たれつの関係を指します。”唇歯”は文字通り「くちびる」と「歯」。”輔車”は「頬骨」と「下顎骨」のこととされていますが、意味的には「頬骨」ではなく、「上顎骨」かもしれません。

このことは、かかりつけの歯科医師と患者さんの関係においても、当てはめることができそうです。診療室の一般的流れとして、患者さんは自分の症状を訴え、自分が何を求めているかを歯科医師に相談します。歯科医師は治療方法を幾通りか示し、その長所短所を説明して、患者さんに治療方法の選択を委ねます。

この時の歯科医師と患者さんのキャッチボールの関係こそ、上アゴと下アゴのようにしっかりとかみ合った、”唇歯輔車”と言えるでしょう。